境界型防御から「ゼロトラスト(ZTNA / SASE)」への現実的な移行
背景と概要
従来の企業ネットワークセキュリティは、社内と社外を境界線(ファイアウォール)で区切り、「境界の内側(社内LAN)は安全、外側(インターネット)は危険」とみなす「境界型セキュリティ」が基本でした。
しかし、クラウドサービス(SaaS)の爆発的な普及、リモートワークの常態化、そしてVPN機器自体の脆弱性を突くサイバー攻撃の急増により、境界型モデルは限界を迎えています。これに代わる概念として、「誰も、どの端末も最初から信頼せず、常に検証する」という「ゼロトラスト(Zero Trust)」の原則に基づくアーキテクチャ(ZTNAやSASE)の導入が進んでいます。
境界型セキュリティ(特にVPN)が抱える深刻な課題
VPN(Virtual Private Network)を過度に過信することのリスクが顕在化しています。
- VPN機器自体の脆弱性と一括侵入リスク
VPN機器はインターネット上に常時露出しているため、攻撃者から絶好の標的となります。一度VPNの脆弱性を突かれたり、盗まれた認証情報でVPNにログインされると、攻撃者は社内ネットワークの「内側」に潜入することになります。
- 「過剰なアクセス権限(フラットネットワーク)」
多くのVPN運用では、接続が許可されると社内LAN全体のWebサーバー、ファイルサーバー、データベースへアクセスできてしまう仕様(フルネットワークアクセス)になっており、内部での横移動(ラテラルムーブメント)を容易にしてしまいます。
- 通信のボトルネックとユーザー体験の低下
すべてのクラウド通信(Office 365やZoom等)を一度社内データセンターのVPN機器へ集約・検査する設計では、帯域が圧迫されて遅延が発生し、業務効率が低下します。
ゼロトラストを実現するコンポーネント(ZTNAとSASE)
ゼロトラストを具現化するための代表的なソリューションが「ZTNA」と「SASE」です。
- ZTNA(Zero Trust Network Access):
ネットワーク全体へのアクセスを許可するのではなく、「特定の認証されたユーザーと端末」に対して「特定のアプリケーション」への最小限のアクセス(App-to-User)のみをその都度許可する仕組みです。ネットワークの存在自体を外部から隠蔽(ダーク化)できます。
- SASE(Secure Access Service Edge):
ZTNA、SWG(Webプロキシ)、CASB(SaaS管理)、FWaaS(クラウド型ファイアウォール)などのセキュリティ機能と、SD-WANなどのネットワーク機能をクラウド上で統合して提供する包括的フレームワークです。
失敗しないゼロトラスト移行の実践ロードマップ
ゼロトラストは単一の製品ではなく「概念」であるため、一朝一夕での全面入れ替えは困難です。段階的なアプローチが成功の鍵となります。
- IdP(アイデンティティ基盤)の強化と統合
まずはすべてのインストールの起点となるシングルサインオン(SSO)と多要素認証(MFA)を強化し、ユーザーと端末の同一性を担保する基盤を整えます。
- 高リスクなVPNアクセスからZTNAへ置換
外部の保守委託業者やリモートワーカーのアクセスから優先的にZTNA(Zscaler、Cloudflare、Palo Alto等)へ切り替え、VPN経由のアクセス範囲を縮小します。
- マイクロセグメンテーションの実施
社内データセンターやクラウド内のサーバー同士の通信を細かくグループ分離(セグメンテーション)し、万が一1台が侵入されても被害が周囲へ拡大しない構造を作ります。