自律型SOCを目指す「セキュリティデータレイク」とデータ基盤の統合
背景と概要
マルチクラウドの推進、リモートワーク端末の増加、各種SaaSの活用により、セキュリティチーム(SOC)が監視・分析しなければならないログやイベントデータの量は爆発的に増加しています。
従来は「SIEM(Security Information and Event Management)」にすべてのログを投入して監視を行うのが一般的でした。しかし、データ量の増加に伴いSIEMのライセンス費用やストレージコストが高騰し、コスト削減のために一部の重要ログの取得を諦めざるを得ないという本末転倒な課題が生じています。これに対し、大容量データを低コストで集約し、AIや高度な分析を可能にする「セキュリティデータレイク(Security Data Lake)」を中心とした次世代のセキュリティデータ基盤への移行が進んでいます。
従来型SIEM単体運用の限界とコスト高圧
SIEMはリアルタイムのアラート分析に特化している一方、データの長期保管や大量処理にはコスト高構造となります。
1. 「データインジェスト量」に応じた課金モデルの圧迫
多くのSIEM製品は「1日あたりに取り込むデータ量(GB/日)」や「秒あたりイベント数(EPS)」で課金されるため、EDRの全ログやクラウドのフローログなどの大容量データをそのまま流し込むと、年間予算を大幅にオーバーしてしまいます。
2. サイロ化されたログと横断分析の困難さ
クラウドのログはクラウド側の監査ツール、端末ログはEDRコンソール、ネットワークログはファイアウォール管理画面に分散(サイロ化)しており、高度な標的型攻撃(APT)を検知するための横断的なログ相関分析が難しくなります。
「セキュリティデータレイク」のアーキテクチャとメリット
安価なクラウドストレージ(AWS S3、Snowflake、Google BigQuery等)とオープン規格を活用し、すべてのセキュリティデータを一元管理する設計手法です。
1. データ保管と高度計算の分離(Storage and Compute Decoupling)
すべての生のログ(Raw Data)を極めて安価なオブジェクトストレージに保管し、分析・検索が必要な時だけ計算リソース(Compute)を起動させる構造をとることで、コストを従来の数分の一へ抑えつつログの全量・長期保管(数年間)を実現します。
2. オープンフォーマット(OCSF)の採用による標準化
異なるセキュリティ製品から出力されるログ形式を、標準規格である「OCSF(Open Cybersecurity Schema Framework)」に自動変換・統一して集約します。これにより、ベンダーロックインを回避し、異なるツールのデータ同士を容易に相関分析できるようになります。
3. AI・機械学習(自律型SOC)への学習データ供給
データレイクに溜め込まれた全量のペタバイト級データをAIモデルに読み込ませることで、人間のアナリストでは発見不可能な「数ヶ月にわたる微細な通信異常(アノマリ)」や「潜伏攻撃の予兆」を機械学習によって精度高く検出します。
セキュリティデータ基盤構築に向けたアプローチ
既存のSIEMとデータレイクのハイブリッド運用が現実的とされています。
1. 「リアルタイム監視(SIEM)」と「全量保管・詳細分析(データレイク)」の役割分担
即時アラート通知が必要な高優先度イベントのみをSIEMへ流し、それ以外の全量ログは直接セキュリティデータレイクへ流し込むデータパイプライン(Cribl等)を構築します。
2. 有事の際の高速フォレンジック検索体制の確保
インシデント発生時には、データレイクに対してSQLやAIプロンプト等で過去数年間分にわたる全端末の通信・認証ログを秒〜分単位で横断検索できるクエリ環境を整えます。