ソフトウェア部品表「SBOM」の運用課題とVEX(脆弱性影響度情報)の活用
背景と概要
ソフトウェアサプライチェーン攻撃の深刻化に伴い、ソフトウェアを構成するオープンソース(OSS)やサードパーティ製ライブラリの一覧(成分表)を可視化する「SBOM(Software Bill of Materials)」の導入が急速に進んでいます。米国の大統領令や欧州のサイバーレジリエンス法(CRA)など、各国の法規制でもSBOMの作成や提出が義務化される動きが広がっています。
しかし、SBOMを実際に自社の開発プロセスや脆弱性管理へ組み込む段階において、生成された膨大な脆弱性通知の精査に追われる「アラート疲弊」という実務上の壁が顕在化しています。この課題を解決する仕組みとして注目されているのが、脆弱性が自社環境で実際に「悪用可能か」を示す指標である「VEX(Vulnerability Exploitability eXchange)」の活用です。
SBOM導入現場における実務上の課題
単にSBOMを作成・収集するだけでは、運用コストが急増するリスクが生じます。
1. ノイズ(影響のない脆弱性情報)の大量発生
SBOMツールでソフトウェアをスキャンすると、数百〜数千件のCVE(既知の脆弱性識別子)が検出されます。しかし、その中には「コード内の使用されていないモジュールに含まれる」「特定のOS・環境でのみ動作する機能であり、自社環境では実行されない」といった、実質的に影響のないノイズが多数含まれます。
2. 脆弱性調査に伴う手動コストと修正の遅延
検出された一つひとつの脆弱性について、開発者が「本当に自社の製品やシステムに影響を与えるか」を手動でコード解析・検証するのは膨大な時間を要します。その結果、真に緊急対応が必要なクリティカルな脆弱性の修正が後回しになるリスクがあります。
VEX(脆弱性影響度情報)の役割とメカニズム
VEXは、SBOMに記載された脆弱性に対して、製品ベンダーや開発者が「その脆弱性が自社製品においてどのようなステータスにあるか」を機械判読可能な形式(JSON等)で付与する補足情報です。
VEXでは、主に以下の4つのステータスが定義されます。
Not Affected(影響なし): 脆弱性は含まれるが、コードが実行されない等の理由で攻撃不可能。
Affected(影響あり): 脆弱性が悪用可能であり、修正や回避策が必要。
Fixed(修正済み): すでにパッチや新しいバージョンで修正されている。
Under Investigation(調査中): 現在影響の有無を検証している段階。
SBOMとVEXを組み合わせた効率的な脆弱性管理アプローチ
開発パイプラインの自動化とコンテキストに基づく優先度付けが必要です。
1. CI/CDパイプライン内でのSBOM/VEX自動生成
SyftやTrivyなどのオープンソースツールをCI/CDパイプラインに組み込み、ビルド時に自動でSBOMを生成するとともに、VEXツールと連携してステータスを可視化します。
2. VEX情報に基づく「影響なし脆弱性」の自動除外
VEXステータスが「Not Affected」と判定された脆弱性については、セキュリティ監視ツールのアラートから自動的に除外(サイレンス)し、開発者が「Affected」な脆弱性の修正に集中できる環境を整えます。