重要インフラを揺るがす「OT/ICS環境におけるプロトコル脆弱性」
安全上の注意:稼働中のOT・ICS機器へ診断、更新、遮断、設定変更を直接行うと、操業や安全へ影響する場合があります。資産所有者、機器メーカー、保守担当者の承認と手順に従ってください。
【背景と概要】
工場、プラント、電力網、ビル設備、交通システムなどを制御する「OT(Operational Technology)/ ICS(産業用制御システム)」環境。従来、これらのシステムはオフィスIT網から物理的に切り離された孤立環境(エアギャップ)で運用され、固有の専用プロトコルを用いて動いていたため、「サイバー攻撃とは無縁である」と考えられていました。
しかし、スマート工場化(IoT化)、リモートメンテナンスの導入、IT/OTの統合が進んだ結果、オフィスIT網やVPN回線を経由してOT環境内部へサイバー攻撃が到達し、操業停止や物理的な設備の破壊に至るリスクが現実化しています。
【OT/ICS環境が抱える構造的なセキュリティ弱点】
IT環境とは異なる産業用システム特有の歴史的背景が影響しています。
- 制御プロトコル(Modbus、BACnet、Profinet等)の認証欠如
数十年前に設計された標準的なOTプロトコルの多くは、「通信相手が本物の制御装置であるか」を確かめる認証機能や、通信内容を暗号化する仕組みを持っていません。そのため、ネットワーク内に侵入されると、容易に偽の制御コマンド(例: バルブを閉じろ、出力を上げろ等)を受け入れてしまいます。
- システムライフサイクルの長さとパッチ適用の困難さ
OT機器(PLCやDCS等)は10年〜20年以上の長期間にわたって稼働し続けることが一般的です。古いOSや修正されていない脆弱性が多数残存している上、24時間連続稼働のプラントではセキュリティパッチ適用による再起動が容易にできません。
- 資産(アセット)の不透明さ
増改築を繰り返した工場内において、「どの型番のPLCがどこに何台接続されているか」の全体インベントリを完全に把握できていない企業が多く、死角が生じやすい課題があります。
【OTインシデントが及ぼす破滅的リスク】
単なるデジタルデータの損失にとどまらず、生産ラインの長期停止、高額な製造機器の物理的破損、有害物質の漏えいや火災など、人間の人命や環境破壊に関わる重大な物理事故を引き起こす恐れがあります。
【OTセキュリティ確立に向けたガイドラインとアプローチ】
「運用を止めないセキュリティ」を前提としたアーキテクチャが必要です。
- Purdue(パーデュー)モデルに基づくネットワークセグメンテーション
ITネットワークとOTネットワークの境界、およびOT内部の階層(制御層・フィールド機器層)間に産業用ファイアウォールを配置し、許可された特定の通信以外をすべて遮断します。
- パッシブ(受動的)資産可視化・異常検知ツールの導入
OT機器にアクティブなスキャン(パケット送信)を行うと機器が誤動作・停止する恐れがあるため、ネットワークトラフィックをミラーリングして受動的に解析するOT専用セキュリティツール(Nozomi、Claroty等)を活用し、未知の機器接続や不審な制御コマンドをリアルタイム検知します。
- リモート保守回線の厳格なアクセス制御
外部の保守ベンダーが工場へ接続するリモート回線に対し、常時接続(接続しっぱなし)を排除し、作業時のみ多要素認証(MFA)を経て接続を許可する運用を徹底します。